課題:「デジタル化したい」でも何から手をつければいい?
卸・流通業では、長年の慣行で以下のような状態が続いているケースが多く見られます。
- 取引先からの注文はFAXや電話で受け、担当者がExcelに転記
- 商品カタログは紙または古いPDFが複数バージョン存在
- 商品コードが取引先ごとに違う(仕入先の品番、自社品番、得意先品番が別々)
- 「EC展開したい」「在庫のリアルタイム照会をしたい」が、データ基盤がなくて動けない
これが LV1(生データ) の典型的な状態です。
なぜ「EC連携」が難しいのか
ECプラットフォーム(Amazon、楽天、BASE等)への商品登録には、統一されたデータが必要です。
- 商品コード(統一された自社コード)
- 商品名(表記の統一)
- 価格・在庫数(リアルタイムで更新される数値)
これらが定義されていないと、EC連携はシステムを入れても「手作業での転記」が発生し続けます。
AI-Readyレベル診断
| データ種別 | 現状レベル | 問題点 | |---|---|---| | 商品カタログ | LV1(紙・PDF) | デジタルで読めない | | 受注データ | LV1(FAX・Excel転記) | フォーマット不統一 | | 在庫データ | LV1〜LV2(部分的にDB) | 商品マスタと紐付いていない | | 商品マスタ | LV0(存在しない) | 起点となるマスタが未整備 |
体制面:誰が何をするか
専門的なITスキルは不要。業務担当者2名からスタートできます。
| 役割 | 人数 | 求めるスキル | |---|---|---| | 商品管理担当 | 1名 | Excelの商品リストを管理している担当者。カタログの内容を把握しているレベルでOK | | IT担当(兼任可) | 1名 | Excelの基本操作ができれば十分。初期はCSV取り込みのみ。 | | 外部支援(当社) | — | AI-OCR設定・DBML設計・RDB構築のリード |
ポイント 最初に「商品マスタの定義」を決めることが全ての起点です。 「自社の商品コードは何を基準にするか」——この1つの決定が、後続の全システム連携の基盤になります。
技術面:何のツールで・どの手順で
ステップ1:紙カタログ・PDFのLV2化(AI-OCR活用)(第1〜3週)
紙カタログやスキャンPDFを、AI-OCR(Google Document AI、Azure Form Recognizerなど)でデジタルデータ化します。
- OCRで商品名・品番・仕様・価格を抽出
- 抽出結果をExcelに出力し、担当者が確認・修正(AIが苦手な表記ゆれを人力で補正)
- この段階でLV1→LV2(構造化データ)への変換が完了
ステップ2:DBMLで商品マスタ設計(第4〜5週)
整理されたデータをもとに、DBMLで商品マスタのスキーマを設計します。
Table product_master {
product_id varchar [pk, note: "自社統一商品コード(全取引で共通)"]
product_name varchar [note: "商品名(標準表記)"]
category varchar [note: "商品カテゴリ"]
unit varchar [note: "単位(個・箱・ケースなど)"]
supplier_product_code varchar [note: "仕入先品番"]
list_price decimal [note: "定価(税抜)"]
is_active boolean [note: "販売中フラグ"]
}
Table supplier_product_map {
id int [pk]
our_product_id varchar [ref: > product_master.product_id]
customer_id varchar [note: "得意先ID"]
customer_product_code varchar [note: "得意先品番(FAX注文で使われるコード)"]
}
この supplier_product_map テーブルが「FAXの得意先品番 → 自社商品コード」の変換テーブルになります。
ステップ3:RDB構築とEC連携テスト(第6〜10週)
- PostgreSQL(またはクラウドDB)に商品マスタを構築
- 既存ExcelデータをCSVでインポート
- ECプラットフォーム(BASE等)のCSV形式に変換するエクスポート機能を実装
- FAX→受注システムでの自動品番変換をテスト
ステップ4:在庫リアルタイム連携(第11〜14週)
- 商品マスタをキーに、倉庫管理システム(WMS)と在庫テーブルを紐付け
- EC在庫数の自動同期(在庫切れ時の自動非表示)
- TextToSQLで「A商品の在庫は?」「今月の売れ筋TOP10は?」のクエリ検証
効果(After)
| 指標 | Before | After | |---|---|---| | EC商品登録 | 紙カタログを見ながら手動入力(1品5〜10分)| 商品マスタからCSV出力で自動登録 | | FAX受注処理 | 担当者が手動でExcelに転記 | 自動品番変換で受注システムに直接取り込み | | 在庫照会 | 倉庫担当に電話確認 | システムから即座に参照 | | 商品情報の更新 | 紙カタログ・Excel・ECサイトを別々に更新 | 商品マスタ1箇所を更新するだけ |
よくある質問
Q:今後AIによる商品レコメンドを実装したい場合、この基盤は使えますか?
A:商品マスタ(LV2)が整備されれば、AIレコメンドへの拡張は格段に容易になります。「購買履歴 × 商品マスタ × テキストレビュー」を統合することで、LV3(AI最適化)へのステップが踏めます。
Q:既存の受発注システムがある場合、置き換えは必要ですか?
A:原則として置き換えは不要です。既存システムと新規の商品マスタDBの間に「変換レイヤー」を設けることで、段階的な移行が可能です。スクラップ&ビルドではなく、既存資産を活かした拡張を推奨しています。